熊に会った時の対処法として、ネットの中には「死んだふりをする」「身の回りの物を置きながら後ずさる」といった対応が紹介されています。
悪い選択ではありませんが、実は「その場で動かず大声を出す」これが多くの状況における正解です。
なぜこのような行動が最適なのか。
その理由を姉崎等氏による著書『クマにあったらどうするか』を基にご紹介します。
この記事ではアイヌ民族最後の狩人として65年間、のべ60頭の熊を捕えた著者の熊に対する知識と経験を正しく伝えるべく、私見を入れることなく書籍の内容を紹介します。
熊がおとなしい性格なのか、血気盛んな性格なのか、年齢は若いのか。熊には1頭1頭個性がある上、人と遭遇する状況は多様です。
熊への対処法はこうした多様な状況の中から決まってきますので、決定的な対処マニュアルは存在しません。このことを十分考慮して、この記事で紹介する内容をご活用いただきますようお願い申し上げます。
- 熊に会わない安全な釣りをしたい方
- 熊に会ったらどうすべきかを知りたい方
- 熊の習性を理解したい方
1.熊の本当の姿
熊による事故を減らすべく、まずは熊の本当の姿を理解しておきましょう。
そのため自ら望んで人を襲う動物ではなく、熊が人を襲う場合は「自らの命を守るため止むを得ない場合」「過去に人を襲った経験があり、人を餌だと認識している場合」「不意に人間が現れて驚いた場合」です。
本当は人間が怖い
人間はチェーンソーで大木を切り倒し、車で林道を猛スピードで駆け抜けます。そして、銃という武器を持って熊の命を奪うことのできる生き物です。
一方熊といえば力は強いですが、薙ぎ倒せるのは精々直径15cmの枝程度で相手の命を奪えるのは接近して牙と爪を使った方法くらいです。
難なく大木をドサっと切り倒す人間をよく観察している熊は、自らの弱さをよく理解しているため「人間は怖い生き物」であると認識しています。
このため熊は人間と接触しないよう、人の気配を感じたらその場から逃げ、自分の寝ぐらに近づいてきてやむを得ない場合は「鳴き声」をあげたり、手で地面を「バーン」と叩いたりして人間に自分の存在を認識させ、その場から立ち去ってもらおうとする動物です。
つまり、熊は「人間の方が強い」と思っています。
人形を使った実験などでは熊が人形をボロボロになるまで攻撃しているように見えますが、これは、相手が怖いから安全かどうかを確認するために恐る恐る触って確認しているだけなのです。
熊は「人が怖い」から本当に手が出ない。これが熊の本当の姿です。
熊の好き嫌い
相手の習性を知らなければ対応を考えることはできません。そこで、ここでは熊が好む食べ物や嫌いなもの、どのような場所を好むのかなどをご紹介します。
熊と合わないためにも、釣りに出かける際の参考にしてください。
熊が好むもの
・日光浴
熊は日常的に太陽の光を欲しており、木のない野っ原のような場所で寝ている動物です。「薄暗いから気味が悪く熊が出そう」だと思いがちですが、森の中でも開けた場所こそ熊に遭遇する危険が高いのです。
・ドングリ、サルナシ
主食として一番多く食べるのがドングリで、最も喜んで食べるのがサルナシです。熊はサルナシがあると分かると相当危険な場所でも採りに行って食べますので、こうした木の実が多い森には熊が生息している可能性が高いといえます。
熊が嫌いなもの
・動くもの
熊は基本的に自分の身の安全を最優先に考えます。このため目の前で動くものがあると自らに危害を及ぼすのではないかと不気味に思い、動きを止めようと攻撃します。熊に出会った際、抵抗しようとしたり、逃げ出したりすると熊に襲われるのはこのためです。
・ヘビ
熊が道を歩いていて目の前でヘビの存在に気付いた時、驚いて跳ね上がり、そのあとは蛇を叩き潰してしまいます。
しかも、ヘビが死んでいても何度も叩く。それほどヘビを怖がるため、熊と遭遇した時にはロープなどを熊の目の前に投げると効果があると言われています。また、ロープがない場合はベルトで代用するのも効果的です。
・タバコの匂い
熊は嗅覚が敏感なため、タバコの匂いを感じると人が近くにいると分かります。熊は基本的に人との接触を避けますので、タバコの匂いは熊よけとして有効です。
・ペットボトルの音
空のペットボトルを押して出る音を嫌います。鈴や爆竹の音なども熊よけとしては確かに有効です。しかし、このような音を聞いてもこれまで危険に晒されることの無かった熊は警戒しません。
一方、空のペットボトルを押して出る「ペコッ」という音は熊が聞きなれていない音のためどのような危険があるか分からず、熊は不気味に思い逃げていきます。
2.釣りの最中、熊に会ってしまったら?
釣りの最中、熊に出会ってしまった時にはどうすれば良いか?
ここでは熊に会ったら行うべき行動をご紹介します。
絶対に、逃げてはいけない
熊は背を向けて逃げる人を追う習性があるため、どれだけ恐怖を感じても絶対に逃げてはいけません。
なぜ逃げてはいけないのか。書籍の中から一部引用します。
7、8人の営林署の作業員が朝、山に向かって行ったらクマに出くわして、クマに出会したら逃げるという心理が誰しも一番早いんですよね。
そして「ワァー、クマが出た」って言って逃げた。若い者は足が速いからどんどん逃げる。そして林道ですから半分は崖場になっている。そしたら足の弱い年寄りは倒れてひっくり返った。
そのとき一人だけ襲われてクマに殺されたんですよ。
7、8人のうち誰が殺されたのかっていうと、なんと一番足が速い人、一番先に逃げた人だった。
「第5章 クマにあったらどうするか」 より
熊は人間のことを怖い生き物だと考えています。熊がこちらに向かってきた時に、逃げるのではなく、逆に熊に向かっていくことで命を救われたという報告もあります。
熊に背を向けるということは自らの命を捧げることを意味します。熊にあっても絶対に逃げてはいけない。このことは強く覚えておくと良いでしょう。
その場に立ち大声を出す
本の著者は単独で40頭近く、全部で 60頭近くの熊と遭遇しています。そのうち、銃を持たない素手の状態で熊と出会ったのは8回。
著者の経験上、熊に出会ったら「ウォー」と大声をあげ、相手を圧倒する気迫を示すことが重要だと言います。
著者がキノコの収穫に山へ入った際、目の前約5メートルの距離で熊に遭遇した時の体験を書籍よりご紹介します。
そしてサワサワっていう音で立ち上がったときには、だいたい5メートルのところまでクマは接近していました。そこでまず私は立ち上がって、「ウォーッ」と。
喉からではなく腹の底から出すような声で「ウォーッ」って声を出したんです。<中略>
もう大体4メートルくらいまで接近してきた。
そこまで近くなると「オイ、オイ」と言ったような焦った声は禁物です。ワッ犬が吠えるような声も駄目です。
それで人間も落ち着きを見せてクマに落ち着いているよと知らせるために「ウォー」って言ったんです。
「第5章 クマにあったらどうするか」 より
なぜ大声を出すことが良いのか?
それは自分は相手より弱いと悟られると襲われてしまうからです。
一方、大声を出すことで熊を刺激してしまうのではと心配になる方も多いかと思いますが、声を出さないということは熊へ自分の弱さを見せることにつながります。
それよりも大声を出して自分を強く見せる方が生存確率が上がります。
堂々と熊の真正面に立ち、体を揺り動かさず、目を逸らさずに大声を上げる。
これが熊に会った時の最適な行動です。
3.【まとめ】釣りの最中、熊に会わないためには?もし会ったらどうするか?
これまで、熊の習性や熊にあった時の対処法をご紹介しました。
これを踏まえて釣りの最中、熊に会わないためには?もし会ったらどうするか?について、書籍で紹介されている熊対策をご紹介します。
熊対策の”7ヶ条”
【まず予防のために】
1.ペットボトルを歩きながら押してペコペコ鳴らす
2.または、木を細い棒で縦に叩いて音を立てる
【もしも熊に出会ったら】
3.背中を見せて走らず、大声を出してにらめっこで混くらべ
4.じっと立っているだけでもよい。その場合、体を大きく揺り動かさない
5.腰を抜かしてもよいから動かない
6.子連れグマに出会ったら子グマを見ないで親だけから見ながら静かに後ずさり
(その前に母グマ空のバーンと地面を叩く警戒音に気をつけていて、もしもその音を聞いたらその場を速やかに立ち去る)
7.ベルトをヘビのように揺らしたり、釣竿をヒューヒュー音を立てるようにしたり、柴を振り回す
熊に襲われた時の最終手段
熊は自らの命を守ることを最優先に考えているため、いきなり噛みついてくることはありません。
熊が人を襲う場合はまず相手に覆い被さり、動くところを攻撃して動きを止めようとします。基本的にはじっとして動かないでいれば熊は立ち去ることも多いですが、いちど人を襲った経験のある熊ならそう簡単ではありません。
そのように、覆い被さられ、今にも噛みつかれそうだという命の危険が迫っている場合、書籍では次のような最終手段を取ることを勧めています。
【熊の口の中に手を突っ込み、熊の舌を掴み口の中に押し込むか、引っ張り出す】
この時にナイフやナタ、釣り竿といった道具があれば全力で熊の口の中に押し込む。熊の口にものや人の手が入ることで熊は強い力で噛むことができないと言います。
また、勝てる思って襲ったはずの人間からいきなり反撃をを受けた場合、熊としては不意を突かれる形となり、驚いた熊は逃げてしまう場合があります。
これは最悪の状況に限って行うべきですが、このような方法もあることを覚えておくと良いでしょう。
4.安全な釣りのために
熊鈴の活用
ペットボトルを使って音を鳴らすのが効果的とご紹介しましたが、釣りの最中、終始ペットボトルを握るのも大変です。基本的には人間の存在を熊に認識してもらうことで遭遇する確率を減らせますので、熊鈴を活用するのも良いでしょう。
熊スプレー
熊に出会いどうしても襲われるという場合には熊スープレーを使用するのも有効な手段です。
また、熊スプレーを所持していることでメンタル的にも「いざとなったら熊スプレーで切り抜けられる」という安心にも繋がりますので、準備しておくのが良いでしょう。
ゴミを残さない
釣り場を汚さないことは釣り人たるもの当然のマナーです。
何より、ゴミを残さないということは美しい自然を守ることにもつながる上、非常に有効な熊対策にもなるのです。
熊は普段ドングリやサルナシといった味の淡白なものばかりを食べています。
例えば、自然界に存在する木の実から見た場合、人間が食べるカップラーメンのスープや釣り餌は飛び上がるほど美味しく感じられるため、釣り場にカップラーメンの殻などが落ちていると熊はそれを齧って味を覚えます。
人間界の食べ物の味を覚えた熊は、人間を見ると食糧を持っていると思いますので人間に接近してくることになります。
このため、熊を人間に近づけないためにも絶対に釣り場にゴミを残してはいけないのです。
5.正しい知識を身につけ、釣りを楽しもう
この記事では一人でも多くの釣り人の命が守られるよう、熊の習性、熊に会わないための方法や熊に会った時の対処法を紹介しました。
熊による事故を減らすため、まずは熊に対する正しい知識を身につけることが重要です。正しい知識を身につけることで熊を避ける正しい行動につながります。
熊と遭遇した際には恐怖を感じると思いますが、本能には従わず、知性に従うことで安全で快適な釣りを楽しんでいただけたら幸いです。
より深く学びたいという方は書籍を手にしていただくことをお勧めします。
最後までご覧いただきありがとうございました。